6/29第二作小説「千に咲く」水月あす薫(みずきあすか)
詳細はリンクしている「ルナーズファウンテン」でどうぞ。
 
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覚醒しない少年
JUGEMテーマ:短編小説
山を利用した坂道に家並みが綺麗に見える。

車が到着したのは、そんな住宅地の一角だ。

ここへ来るまで 息子には何も話していない。

話せば必ず ”逃げられる” 私には その危機感だけがあった。

その家に入ると、いわゆるリビングに猫が寝そべっていた。

特に変わりのない 普通の家。


「これから 話すことに おかあさんは 聴いていてね。」 私は 黙ってうなずいた。

「不思議空間に 来たと思ってね。」

その家主が話す言葉は 息子には 物語にしか聞こえなかったかもしれない。



昔 中国の王朝。二人の王子がいた。 長男は側室の子供。次男は正室の子供。

利発な長男は、側室の子であっても愛され、将来を嘱望されていた。

しかし、失脚を狙う次男 正室側が導師(陰陽師)をたてて、長男 側室側に呪いをかけた。
 
導師は強い力を持っており、魔界より蛇を連れてきて、長男に取りつかせた。
 
蛇に取りつかれた 側室側の長男は 狂人となり、やがて やせ衰えて死んだ。
 


「あなたは、その長男 側室の子供だったの。小学校の頃、蛇はあなたを見つけて、再び取りついたの。その蛇、取り除いても、いいかしら?」


息子は 少し戸惑いがちに
 

「悪いものなら、取って下さい。」 と言った。
 


私は 正直 はらう場面など見たことはない。


まして、何も見えない私には 何をしているのか わからない。
 
しかし 家主が いつになく 力が入り、大きな物と戦っている様子だけは、感じられた。
 


「どうぞ。座って。」


息子は どう感じたのか、よく 解からない様子だった。


「蛇は、あなたの魂も食べるつもりだったみたい。でも、あなたの魂が強かったから、死んだ時に すぐに霊界に逃げたの。」

家主は続ける。
 

「よく49日と言うけれど、普通は少し現世に魂がとどまっているのね。でも、とどまっていては蛇に食べられるから、すぐに霊界にいったの。」
 

息子の魂は強く 魔界の蛇は捕まえられなかった。魔界の蛇は 霊界には行けない。

蛇は 執念深く また転生してくることを待った。
 
次の転生。蛇は、息子の魂を見つけて 人生をめちゃめちゃにした。


そして今度が 三度目の人生だった。
 

小学校の頃に息子を見つけてとりつき、彼の体をぐるぐる巻きにして、ネガティブなことを吹き込み、やる気をなくさせ、人生の目標を見失わせていた。


「質問、何かある?」


息子は 戸惑いを隠さないまま、口を開いた。
 

「あの、父親とうまくいかない、というか。


今は離れて暮らしているので良いのですが、どうも うまくいかなくて。」


「その時の王様が 今のお父さんよ。愛していた息子だったけど、狂ってしまって心が離れた。だから、今世で、親子をやりなおそうとしたの。」
 

そして、ちらりと私を見た。


「おかあさんは、その時 いなかったけどね。おかあさんのお腹を借りて、再び息子として生まれたのね。」


蛇 云々には 少々 半信半疑の息子だったが、この父親の話は、妙に納得したようだった。
 

「あのね、何も見えないでしょ。私の話だけだから、何も証明はできないの。でも、お話し、聞いてくれて良かったわ。でも。」


息子も私も 家主を見つめた。
 

「今までの癖が残ってる。蛇によって、ネガティブな心、諦め、めんどうくさいとか、そういう途中でやめてしまったり、諦めたりすること。」

「これから、本当に変わるのは自分自身だから。その癖を、変えるのは自分自身だから。」



息子が何か不思議な力があるように感じたのは、彼が小学校の時だった。
 

てっきり 見えないものが見えると感じてしまった私が、つい喜んでしまってから、彼は自分を否定し始めた。
 

反省しても遅い。

その後 何故か どんどん やる気を失っていった。

小学校 中学校 高校 大学 初めはいいのだ。 


しかし、かならず すぐ息切れする。


大学は・・・2年生で すでに卒業できない状態。

一年で取れる単位をあと2年間 フルで取っても 足りない。
 

しかし 大学をやめたいなら それもいい。

自分のやりたいことがあるなら やめて その道に行けばいい。
 
しかし、本人は やりたいこともなく、勉強することもなく、ただ時に流されていくだけだった。


今更 二十歳を過ぎた大人を 叱りつけて 先に進めるとも思っていない。
 
しかし 三年の前期は、 取得単位 ゼロ だった。
 


時は 突然やってきた。


彼の兄の結婚式と、その兄の用事が 三連休の 一日目と三日目にあり、私は三日間 関東に滞在することになったのだ。
 

その 真ん中の 二日目の日。

私は 思い切って その二週間前に、私の師匠にセッションをお願いした。
 

師匠は、大変忙しい方だが、たまたま その日が直前に空き、息子に何も告げずに、私は師匠の家までやってきた。
 
「自分を認められるようになってほしい。否定しているだけでなく、時間がかかっても何か やりたいことを見つけてほしい。それには、まず、自分を認められるようになること。」

私が 師匠にお願いしたことは、これだった。


それが、こんな展開が待っていようとは。
 



「カウンセリングを受けてるみたいだったね。」


帰りの電車で息子が言う。
 

「普通の家だったし。蛇は わからないけど、親父のことは、よくわかった。」


それでいい。それだけでいい。
 

私だって 何も見えてはいない。わからない。 でも、納得できた。 それで いい。




秋風の吹き始めた10月。 憧れた師匠の家に行ったのに、正直、あまり 良く覚えていない。


息子のことで 必死だったから。


師匠。
 


別に 霊的なものの師匠でない。


人生の師匠だ。
 

師匠との出逢い。



それは、またの話しにとっておこう。



覚醒しない少年は、もう青年の域に到達したのか。



本来の覚醒を、また 心待ちにする 私だった。

2011年10月9日
【2011.10.15 Saturday 18:51】 author : sirius08
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【2017.03.17 Friday 18:51】 author : スポンサードリンク
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