6/24第三作初の短編集「白龍抄」発行水月あす薫(みずきあすか)
詳細はリンクしている「ルナーズファウンテン」でどうぞ。
 
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【2017.09.28 Thursday 】 author : スポンサードリンク
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愛の糸 #35 柏倉康寛の逡巡(かしわぐら やすひろのしゅんじゅん)
JUGEMテーマ:恋愛小説

 初めから読まれる方は こちらから

叔且(としかつ)が玲王(れお)に母親と会う事を勧めてから、玲王自身も何度かクリニックを訪れている。
叔且は、玲王が母親と会う事を了解した時の事を、直後の相談日に語っている。

 

「最初は聞く耳持たない、という様子でした。
それで、思い切って賭けに出てみたのです。
『母親に会うのは怖いのか?』と聞いてやりました。
玲王が私を睨み、『怖くない』と言いました。
それからは、玲王の様子を見ながら話を進めると、やっと了解してくれたのです。」

さらに母親に夫と子供がいることについては、柏倉と協力し、少しずつ話してゆく事で、玲王を納得させていったのだった。

 


 「月に一回会うことを、桐代さんは納得されましたか?」

「いえ。・・・父が、父の誉次郎が、どんな事があっても反対させない、と言ってくれましてね。
驚きました。
たぶん会いに行く度に、母とはいろいろあるでしょうが、父が心配するな、と言ってくれたので。」




次に交代で嵯峨玲王(さが れお)が入ってきた。
叔且(としかつ)の言ったとおり、明るく微笑みながら、母親との再会の様子を話して来た。




柏倉は一番最初に玲王がこの相談室に来た日のことを思い出していた。
あの暴れていた玲王、母親と会うことが決まった後も、暗く落ち込んだ様子だった。

その玲王が、ここ何回か、いろいろ話してくれるようになったのは、おそらく三角奈々緒(みづの ななお)のせいではないのか。
先日、奈々緒の精神状態にかかわる事件が起きた時も、玲王は冷静だった。
三つ年下の奈々緒をかばう様に、奈々緒に寄り添っていた。

 



「先生、俺、こんなに妹がかわいいとは思わなかった。
帰る時に、露海(ろみ)が首にすがり付いてきて、泣きそうになりながら『また来てね。』って言うんだ。
それに拓真さんが・・・。」


 「拓真さん?」

「あ、おかあさんのだんなさん。」

「拓真さんて、呼んでるんだ。」

「拓真さんがね、父親でも兄でも伯父でもないけど、でも俺の家族になりたいって・・・。
だから、名前で呼んで欲しいって言うんだ。
それに、家には決まった日だけでなくて、いつでも来ていいし、もう一つの自分の家だと思えばいいって。」

玲王は照れながら頭をかいた。


この子のこんな幸せそうな姿を、柏倉はかつて見た事があったろうか。

 


それから玲王は、叔且と佳苗が離婚した時の親権問題にふれた。


 「それで玲王くんは、その事をおとうさんに言わなかったの?」

「本当は、帰ってきた時言ってやりたかった。
おばあちゃんにも。
でもおかあさんが、その事で、お父さんを責めないで欲しい、っていうから。結局、おばあちゃんにも言うのを止めたんだ。」



この子は、なんて強いんだろう。
長い間一番傷ついて来たのは、玲王なのに。
玲王は桐代さえも許している。



「先生でもね、俺まだおかあさんて言えてないんだ。
先生には言えるんだけど、おかあさんの前では、言えなかった。」
「これから何度も会えるんだろう?
いつかきっと、自然に言える時が来るさ。」

玲王はちょっと唇を噛みながら、頷いた。



「それから、先生にお願いがある。」

玲王はずいっと体を前に倒し、柏倉を見つめた

ありがとうございまし
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【2009.08.23 Sunday 01:05】 author : sirius08
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愛の糸 #34 柏倉康寛の逡巡(かしわぐら やすひろの しゅんじゅん)
JUGEMテーマ:恋愛小説

はじめから読まれる方は こちらから 



柏倉康寛は看護士に目で合図した。
看護士は柏倉の手元のカルテを目で追いながら、
そのカルテに付いている付箋の番号を読み上げた。

「八番でお待ちの患者様、相談室にお入りください。」


中学生の不登校の少年が入ってきた。
柏倉は、つい半年前まで通っていた同じ不登校の少年を思い出した。
少年の名は嵯峨玲王(さが れお)といった。

 

 



その日は玲王の相談日で、最初に嵯峨叔且(さが としかつ)、嵯峨玲王・中学一年の父が一人で相談室に入った。

嵯峨玲王は父・祖父母の四人家族。
母と乳児期に別れ成長。
中学に入る頃より母親の顔も見た事も無い事をからかわれ、不登校となり、家出を繰り返していた。

 



「玲王くん、おかあさんと会われて、いかがでしたか?」

柏倉は叔且と顔を合わせるなり、開口一番そう言った。

 



柏倉が営む柏倉メンタルクリニックに、最初に相談に来たのは玲王の祖父母、誉次郎(もとじろう)と桐代(きりよ)だった。

当初中学で母親の事でからかわれていた玲王は、思い余って手を出してしまい、かえって喧嘩慣れしていた相手に殴られてしまって、あざを作ってきた。

それを見た誉次郎と桐代が学校に行った事から、さらにからかいが、いじめへと発展し、やがて学校へ行かず、昼となく夜となく、繁華街をうろつくようになったようだ。

そして最後に桐代の言った言葉を、柏倉は忘れられない。


「あの子の母親が悪いんです。
あの佳苗の血が、玲王を横道に誘いこんでいるんです。」


この祖母に、母親の悪口を聞かされて育った玲王は、生まれた瞬間から、自分の生命の半分を否定され続けてきた。

それがどんな意味を持つのか、桐代に説明しても、事態が良くなるとは思えなかった。

 



「驚くほど明るくなりました。
相手のご主人も事情を理解してくださったので、これからは月に一回、日を決めて、会うことになりました。」


ありがとうございました
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【2009.08.14 Friday 19:22】 author : sirius08
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愛の糸 #33 森弥祥乃(もりや さちの)の ときめき
JUGEMテーマ:恋愛小説

初めから読まれる方は こちらから 



「変な事聞くけどさ、義母さんは、俺を育てる時どんな感じだったの?」


佳苗の別れた夫との子供、嵯峨玲王(さが れお)と会うことが決まった時、
拓真が電話してきた。

祥乃は笑って答えた。

「どんな感じでもないわ。自然かな?」

「自然て・・・。」

「自然。急に身内になれる訳じゃないんだから。」

「身内・・・ねえ。」


我ながら、たいしたアドバイスも出来ない親だと、
後で祥乃はひとりで笑った。

 

 


 

もともと弟の息子だったのだから、同じ森弥の性は名乗っていた。
伯父さん、伯母さんと呼ばれていたが、やっている事は父母と同じだったと自負している。
それでも、きちんと養子縁組して戸籍上の息子にしたかった。
夫と祥乃の思いは同じだった。

だが、どうしたものか、こんな大事な時になって、意外と夫はだらしなかった。
拓真に断られるのが怖いのだろう。
なかなか言い出せずにいた。

祥乃は、自分が言う、と夫に言い出した。
夫は慌てたが、祥乃は駄目元だと思っていた。
所詮、祥乃と拓真は他人なのだ。
拓真に嫌だと言われても仕方が無い。

ここが、夫と祥乃の決定的に違う所だった。
夫は身内であるが故に臆病になり、
断られた後の気まずさばかりを考えていたのだ。

 


拓真の中学二年の夏休みが終わろうとしていた。
ちょうど拓真の父母兄の七回忌を済ませた年だった。


「拓真、伯父さんと伯母さん、拓真にお願いがあるの。」

祥乃の急な申し出に、拓真は戸惑いを隠せなかった。
祥乃は、すぐに返事をしなくても良いと言った。
拓真の返事を何年でも待つと言ったのだ。

 

 



 

「何年でも、なんて、今思えばよく言えたものだわ。
ほんとはすぐにでも返事がほしかったのに。」


祥乃が一息ついていると、ガヤガヤと子供の声が聞こえた。


来た!

祥乃は飛び上がった。
そして、急いで玄関にかけていった。


「いらっしゃい。みんな、よく来たわね。疲れたでしょう?」

露海(ろみ)と手をつないで、嵯峨玲王が立っていた。
祥乃は玲王の手を引いて、家の中へと導いた。

 

 

 


拓真が正式に祥乃夫婦と養子縁組したのは、祥乃が言い出してから一年後のことだった。


ありがとうございました
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【2009.08.07 Friday 20:15】 author : sirius08
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愛の糸 #32 森弥祥乃(もりや さちの)の ときめき
 

祥乃が夫に返事をしたのは拓真の退院が間近にせまった日だった。
拓真を引き取る事をまず了承すると、夫はやっと笑った。
ここのところ夫の笑顔を見た事が無かったので、祥乃は少し戸惑った。
しかし、言わなければならない事があった。



「あなた、私、拓真くんは好きだし、かわいいし、引き取る事に何の依存も無いの。
ただね・・。」

夫が不安そうな顔をした。


「母親になれるかどうかは、一緒に暮らしてみないとわからない。
ずっと伯母さんのままかもしれない。」

夫は黙って聞いていたが、やがて何度も頷いた。


「そうだな。お前の言うとおりだ。
俺も気を張りすぎていたかもしれない。
伯父さんのままでもいいんだな。
もしかしたら、いつか父親になれるかもしれないし。
先の事はわからないよな。」


まもなく、夫は、拓真に家族の死を知らせ、祥乃達は拓真を伴って、自宅のある東北の田舎町に戻った。

 





正直、拓真を育てるのは思った以上に大変だった。
家族を失った拓真の傷は深く、心を開いてくれないばかりか、新しい生活にもなかなかなじめなかった。

また、すぐに思春期を向かえ、難しい年頃の拓真にどう接していいのかわからず、夫とともに悩む日々だった。



夫は拓真を引き取った時から、毎日拓真と風呂に入った。
スキンシップが何より大切で、拓真と心を通わせる一番の近道と考えたからだ。


中学に入る頃から、拓真は嫌がり始めたが、夫は「男同士だ」と言って譲らず、この習慣は拓真が東京の大学に進学するまで続いた。

 


一緒に暮らして五年もすると、いつの間にか祥乃の心の中で、拓真が無くてはならない存在と、気づかされる事が多くなった。

その頃には、祥乃にとって、すでに拓真は息子になっていたのだ。



拓真と正式に養子縁組することを最初に言い出したのは、祥乃だった。
おそらく、夫はもっと以前からその事を考えていたのではないか。
だが、祥乃の気持ちはもちろんだが、何より拓真の気持ちを考えて、言い出せずにいたのではなかったか。


また、拓真はその頃中学に入り、やっと環境にも慣れ、友達も出来てきていたが、難しい年頃には違いなかった。


ありがとうございました
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【2009.08.01 Saturday 13:43】 author : sirius08
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愛の糸 #31 森弥祥乃(もりや さちの)の ときめき
JUGEMテーマ:恋愛小説
 
はじめから読まれる方は ここから

 「拓真の事なんだが・・・。」

夫は言いにくそうに言葉を切った。



「拓真を・・・拓真を・・・引き取りたいんだ。」

祥乃はホッとした。何を言うのかと構えていたのに、そんな事か。


「もちろんよ。拓真くんが良くなったら、連れて帰りましょう。」
「いいのか?本当に、いいのか?」

夫は、確かめるように何度も繰り返した。祥乃も何度も頷いた。


「祥乃、引き取るって事は・・・いずれ、
父親と母親になるっていう事なんだぞ。

拓真は一人ぼっちになってしまった。
その心の傷を負った拓真を、この東京から転校もさせて、
全く違う土地で、あの田舎で育てるんだ。生半可な覚悟では出来ない。」



祥乃は夫の言葉を聞いて、少したじろいだ。
そこまでは考えていなかった。
拓真にとって身内は夫しかいない。
だから、引き取る。
そんな単純な図式しか考えていなかった。


拓真の母親になる?
この自分が?

子供が出来なかった女が、八歳の男の子の母親になる。
夫には甥だが、祥乃には、他人だ。
全く血の繋がりが無い。

その拓真を、子供を育てた経験の無い自分が育てられるのだろうか。
母親になれるのだろうか。



祥乃は少し時間が欲しいと言った。
それから夫は、祥乃が自分からその話題に触れるまで、何日でも待ち続けた。

 

 

 



「あら、そろそろ高速降りたかしら?」


高速道路を降りてから、約四十分かかる。
拓真はたぶん、お墓参りをしてから来るだろう。
後一時間はある。

祥乃は昼食に向けて、大きなテーブルを出してきた。
家族が多かった時に使っていた、年代物のちゃぶ台だ。
祥乃は五人座れるか確かめてから、また台所に戻った。

 

 

ありがとうございまし
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【2009.07.24 Friday 22:52】 author : sirius08
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愛の糸 #30 森弥祥乃(もりや さちの)の ときめき
JUGEMテーマ:恋愛小説

はじめから読まれる方は ここから 

森弥祥乃は、いつもの様に仏壇に丁寧に手を合わせた。
仏壇には、今朝方庭から切ってきた、祥乃の育てた竜胆と菊が供えられている。


「あなた、今日拓真が来ます。お正月以来ですね。
もちろん、佳苗さんと露海(ろみ)も一緒ですよ。
でもね、今日はもっと嬉しい事があるんです。
私だけ、こんなにいい思いをして。あなた、妬かないで下さいよ。」


祥乃は仏壇に話しかけると、拓真達を迎える為のごちそうの準備に取り掛かった。
ごちそうといっても、決まりきった田舎料理。
お盆には精進揚げとお煮しめ、漬物と相場が決まっている。
それでもいつもは祥乃一人の食卓に四人も人が増えるのだから、祥乃には大変な事だ。
その大変な事が、祥乃には嬉しくて仕方がなかった。

 

 

 

祥乃の息子拓真と、祥乃は血が繫がっていない。本当の子供ではない。


夫が亡くなってから、細々と続けているこの小さな雑貨屋に、祥乃が嫁いできてから、五十年近くの年月が過ぎた。
当時は、五つ年上の夫、舅、姑、高校生の拓真の父がいた。

数年と時を経ず、拓真の父は東京の大学に進学し、卒業後東京で知り合った拓真の母と結婚。
拓真の兄と拓真、二人の男の子をもうけた。


ところが、祥乃には子供が出来なかった。
盆と正月に弟夫婦が帰省する度、舅・姑は孫との再会を喜んだが、祥乃には針のむしろだった。
『子無き三年は去れ』などという言葉は、すでに死語に近かったが、それでも祥乃は、気にせずにはいられなかった。

 


一度だけ、夫に言った事がある。


「子供が出来ないので、別れて下さい。」

夫は驚いて目を丸くしていたが、そのうち声を上げて笑った。
もともと豪快な人ではあったが、祥乃にしてみれば、思いつめた後の最後の結論だった。
それなのに、それを笑う夫に腹が立った。

だが、夫はひとしきり笑い、まじめな顔をしたかと思うと、祥乃をぎゅっと抱きしめた。


「俺はお前がいい。」


夫が一言 そう言った。
祥乃は驚くと同時に涙がぽろぽろとこぼれてきた。
それだけ、それだけだった。
その後二度と、祥乃は子供の話をする事は無かった。



 

突然舅が倒れ、半年間の介護もむなしくこの世を去った。
さらに一年と立たず、姑が後を追った。
その度家族で訪れたたった一人の弟に、夫は、両親の分も長生きしようと、繰り返し話していた。


ところが、姑を亡くした翌年、弟夫婦が交通事故にあった。
祥乃と夫は店を休業にして、東京に向かった。
当初の警察の連絡では、生き残った者がいるのかどうか、東京の病院に行くまでわからなかった。



生きていた。


たった一人、末っ子の拓真だけが明日をも知れぬ、命の危険にさらされた重体だった。
弟夫婦と拓真の兄は即死だった。

三年続けて肉親を失った夫。
祥乃から見ても、声をかけられない程痛々しかった。
その時祥乃が出来た事は、夫とともに、出来得る限り、拓真の介護をする事しかなかった。

 

 
事故から十日目、拓真は意識を取り戻した。
拓真には家族の死を知らせず、介護を続けた。

 

「話があるんだ。」

拓真が意識を取り戻してまもなく、祥乃は夫に病院の屋上に誘われた。
こんな改まった夫は初めてだった。
何事かと思い、祥乃も覚悟を決めて、屋上に上がった。


ありがとうございます
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【2009.07.18 Saturday 09:33】 author : sirius08
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愛の糸 #29 森弥露海(もりやろみ)の戸惑い
JUGEMテーマ:恋愛小説

はじめから読まれる方はこちらから 

「玲王、私ね暖かい家庭に憧れてたの。
実はね私の母、あなたのおばあちゃんだけど、父と別れた後、誰か必ず男の人がいたの。
その人を父と呼んだ事もあったのよ。
でも正式な結婚はしていなかったの。
だから、玲王のおとうさんと、両親のいる当たり前の家庭が作りたかった。」


「どうして、別れたの?」


「別れた理由は、夫婦の事だからあまり詳しくは言えない。
ごめんなさい。玲王のおとうさんにも悪いしね。
ただひとつだけ。」


「ひとつだけ?」


「私は玲王を引き取りたかった。これは本当の事なの。
私の母は、その時も男の人と暮らしててね、
それで・・・子供を引き取れる環境じゃないと、玲王のおとうさんやおばあちゃん達が言ってきたの。」


「だから、あきらめたの?」


「違うわ。母は、その男の人と別れる、と言ってくれたの。
そして本当に別れ話をしに行ったの。
その時母が付き合っていた人には家庭があったし、別れ話はうまくいったの。母がすぐ携帯から電話をくれてね、母と私と玲王と三人で暮らして行こうって言ってくれたのよ。
私、嬉しくて涙が出たわ。
でも、その電話が突然切れたの。
切れたというか、繫がったまま、携帯が道路に投げ出されてしまったの。」


「どういうこと?」


「母が道端で私に電話をかけている時に、ハンドルを切り損ねた車が突っ込んできたの。
・・・亡くなったのよ。
私、一人ぼっちになっちゃった。」


「一人ぼっち!?」


「そう。
だから、一人じゃ子供は育てられないし、母が男の人と別れた事も信じてもらえなくて、二度と会わないと約束させられたの。」


佳苗はおそらく涙を流しながら話している様だったが、ここまで来て声を上げて泣き出した。

 



「俺、何も知らなかった。
ずっと捨てられたと思っていた。
会わないように約束させたのは、おとうさんの方だったんだね。」


「ごめんなさい。おとうさんの事を悪く言うつもりはないのよ。
でも、本当の事なの。」


「うちには写真も無かった。
おとうさんの結婚式の写真だって無かった。
だから、顔も知らなくて・・・。」

 


露海と拓真はしばらくじっとしていた。
やがて佳苗が泣き止み、玲王の話し方も落ち着いてくると、拓真はまた口に人差し指を当て、それから玄関を指差した。

二人はそうっと立ち上がり、玄関にもう一度立つと、今度はガタガタと音を立てた。


「ただいま!」

拓真が大きな声を出したので露海も声を出した。


「ただいま!」

ダイニングの方でガサガサ音がした。


「おかえりなさい。ゆっくりだったわね。」

佳苗のいつもの声が響いて、露海はホッと息をついた。




ありがとうございました
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【2009.07.11 Saturday 00:36】 author : sirius08
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愛の糸 #28 森弥露海(もりやろみ)の戸惑い
JUGEMテーマ:恋愛小説
 
はじめから読まれる方はここから


マンションの部屋のドアを、拓真はゆっくりと、出来るだけ音の出ないように開けた。


露海と拓真の約束は、うちに帰っても、佳苗や玲王に気づかれないように、
静かに音も声も立てずに、拓真が良いと言うまで黙って拓真に付いてゆく事だった。


露海は約束を守ると指切りした。
指切りした限りは、破ったら針千本飲まされる。
露海は忠実にそれを守り、口を自分の手でふさぎながら、うちに入っていった。

 


「ごめんなさい。ごめんなさい・・。」

佳苗の謝る声、泣いている様な声が聞こえた。
露海は思わず手を口からはずし、声を出しそうになった。

が、すんでの所で拓真に口をふさがれ、抱きかかえられたままダイニング入り口の、内ドアの前に座り込んだ。



ママが泣いている。おにいちゃんがいじめたの?




「もう、泣かないで下さい。俺、何て言って良いか判らなくなるから。」
「・・・ごめんなさい。
でも、玲王を育てられなかった事、今まで会えなかった事、何て言って謝っていいか。
決して玲王を捨てたわけじゃないのよ。
この十二年間忘れた事は無かった。」





拓真は口に人差し指をあてて、声を出さないように、という仕草をしたので、露海は黙って頷いた。

 


 
 「ほんとに?本当に、俺を捨てたんじゃないの?」

「もちろんよ。
 今まで会わなかったから、信じられないかもしれないけど、
 私は玲王を引き取って、私の手で育てたかったの。」

「それ、本当なの?」

玲王は少し声を上げた。佳苗の声がさらに続く。


「本当よ。
 自分の生んだ子供と別れたい親なんて、いるわけないじゃない。
 ほんとは引き取るはずだったの。」

「じゃあ、どうして俺はおとうさんに育てられたの?
 どうして一度も会えなかったの?」


 佳苗の声が途切れ、少しの間沈黙があった。

 


「私もね、玲王と同じで父と母が幼い時に離婚してね、母に育てられたの。」

玲王は黙って聞いているのか、佳苗の声だけが聞こえる。


「父とは一度も会った事がなくて、やはり玲王と同じくらいの時、
母のタンスの引き出しから父の住所を偶然見つけて、
何の連絡もしないで、会いに行ったの。
・・・よくわからなくてね、探したわ。」


 「会え・・・たの?」

「会えなかった。
 ・・・って言うより、会わなかったの。
 家はね、見つけたのよ。
 一戸建ての庭付きの家でね。
 もう夜になってたんだけど、表札で父だとわかった。でも・・・。」

「でも?」


 「庭木の間から中が少し見えたの。
そしたらね、男の人と女の人と子供がいてね、楽しそうに夕ご飯食べてた。
ふふっ。
たぶん、父と父の奥さんと、その子供だったんじゃないかな。」


「どうして、会わなかったの?
俺だって・・・同じじゃないか。」


「そうね、今の玲王と私は同じね。でも、大きく違う事がある。
父は私の来る事を知らなかった。だから、入れなかった。
入っちゃいけないと、思ったの。
今の玲王は、拓真も露海も、来る事が判っていて、ちゃんと迎えてくれたでしょ。
でも、私は突然行ったから、父が困ると思ったの。
だから、黙って帰ってきた。それっきりよ。」

 



露海と拓真は膝を抱えて動けなくなっていた。
拓真に念押しされるまでもなく、露海も、声を出してはいけないと思ってきたのだ。


ありがとうございました。


左のポチ 感謝しております。
【2009.07.04 Saturday 22:19】 author : sirius08
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愛の糸 #27 森弥露海(もりやろみ)の戸惑い
JUGEMテーマ:恋愛小説

初めから読まれる方はここから 

「露海(ろみ)、公園にいこうか?」

森弥露海は昼食を終えると、父・拓真から声をかけられた。
 露海はちょっと嫌な顔をした。


 「露海、行かない。」

「どうして?」

拓真が露海の顔を覗き込んできた。

「だって・・・。」


おにいちゃんとお話したいもの。

 


 

露海が別の所に住んでいる兄がいると、母・佳苗から聞いたのは、つい最近の事だ。

何のことなのか、正直 露海には解らなかった。
しかも、佳苗の話だとその露海の兄・玲王(れお)は、近々家に遊びに来るらしい。


最初はどうしてよいのか解らず、会いたくない、と言ってみたり、嫌だと言ってみたりしていた。

しかし、毎日佳苗から話を聞くうちに、少しずつ、玲王に会っても良い気持ちになっていった。
というのも、春から一緒に幼稚園に行くお友達の中には、兄や姉がいる子がいて、時々うらやましい、と思っていたからだった。

 

 


「つまんない。露海帰る!」

結局露海は、拓真に無理やり公園に連れてこられた。
 公園は何棟か連なるマンションの中庭にあり、知っている友達も何人か来ていた。


「露海、お友達もいっぱいいるだろう。もう少し遊んでいこう。」

拓真は露海を家に帰したくないらしい。

何故、玲王が来ているのに、露海は外で遊ばなければいけないのか。
玲王と遊ぶのを楽しみにしていたのに。

露海は、今日初めて会った兄・玲王を、ひどく気に入ってしまった。


「パパ、露海もうやだ!おうちに帰るから、パパ、一人で遊んでなさい!!」

露海はそう言い捨てると、急に走り出した。

「ちょ・・・露海、待てよ!」

 


露海は一階のマンションの玄関口で、拓真に捕まった。
抱き上げられて、露海は思い切り暴れた。
露海が各戸の、ステンレスで出来ているポストを足でけり始めたので、拓真は驚いて露海を離した。

その隙に、露海はエレベーターホールに滑り込んだ。
たまたま、中に入る人に付いて行ってしまったのだ。
露海はすました顔でその人と、エレベーターを待っている。

セキュリティの厳しいエレベーターホールは、本来露海一人では入れない。
玄関口で拓真が、何か暗号のような数字を慌てて押しているのが見えた。


エレベーターが降りて来て露海が中に入ると、拓真が走って乗り込んできた。額には汗が流れて、肩で息をしている。


怒ってる。でも、平気!だってパパが悪いんだもの。

 

自分の部屋の階でエレベーターを降りて、拓真は腰を落とし、露海の目を見つめると、その肩を乱暴につかんだ。


「露海、悪い事したんだぞ。
パパ、エレベーターの中では他の人がいるから、黙ってたんだ。
一人でエレベーターに乗ったら危ないと、いつも言ってるだろう!」


「だって・・・。」

露海はぽたぽたと涙を落とした。


「だって、露海、おにいちゃんとお話したかったんだもの。
ママが言ってたもん。おにいちゃんとは一緒に暮らせないって
帰っちゃったら、今度いつ会えるかわからないって・・。」

露海はしゃっくりと涙が止まらなくなった。
拓真はじっと聞いていたが、やがて露海の頭をなでると、そっと抱きしめた。


「わかったよ。でも、一つだけ約束して欲しいんだ
それが守れるなら、帰っても良いよ。」



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【2009.06.27 Saturday 19:13】 author : sirius08
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愛の糸 #26 森弥拓真(もりやたくま)のためらい
JUGEMテーマ:恋愛小説

最初から読まれる方は ここから 

「いつも、パパに入れてあげるの。
パパ、露海(ろみ)かっこよかった?
ちゃんと、『どういたしまして』言えたよ〜。」


露海は照れたように笑って、拓真の膝に乗ってきた。
「えらかったね、露海。
おにいちゃんのおもてなし、ちゃんとできだぞ。」


拓真は露海を抱き上げながら玲王を見ると、玲王も、少し笑っていた。
露海はまたすぐ、玲王の所へ行き、何かと話しかけているようだ


・・・構える事なんてなかったね、義母さん。
玲王(れお)は中学一年。兄も、中学一年だった・・・。

 

 

 


拓真が八歳のあの夏。

旅館からの帰り道、下り坂でトラックと行き合った。
トラックが思ったより外側にはみ出てきたので、父はハンドルを取られて左に寄ってしまったようだ。
そこは魔のカーブで、ハンドルを戻しきれなかった父は、
そのままガードレールに突っ込んで、車は約五十メートル下の谷底に転落した。

 


拓真は、旅館での帰り道、車の中でささいな事で兄とけんかした。
運転席に父。助手席に母。後ろの席に兄と二人で乗っていた。

けんかして拓真はワアワア声を上げて泣いた。
最初は仲裁に入っていた母も、拓真がいつまでも泣きやまないので、途中から何も言わなくなった。
父にはかえってうるさい、と叱られた。
兄はあきれてシートベルトをはずし、両親の席に前のめりになって、母と何か話していた。

シートベルトをつけたままの拓真は、やがて泣きつかれて眠ってしまったようだった。

 


父・母・兄は即死だった。
拓真だけがまだ息があった。
おそらく、シートベルトをしていた事もあるが、眠っていたので何の抵抗もせず、自然な形で転落したのが幸いしたのではないか、と思われた。

 


父の兄である伯父夫婦が、すぐに駆けつけてきた。


拓真は十日間生死の境をさまよった。
その拓真を伯父夫婦が献身的に介護し、奇跡的に一命を取り留めた。


一ヵ月後、拓真は伯父夫婦に引き取られ、父の実家である東北の田舎町に行く事になったのだ。

 

 

 


「できたわ。ごめんなさい、時間かかっちゃって。」

昼食の準備ができて、佳苗がダイニングの食卓に座るよう声をかけてきた。


拓真は玲王に声をかけようとしたが、玲王はすでに露海に手を引かれていた。


佳苗は拓真の妻、露海は拓真の子供。
佳苗は玲王の母親で、露海は玲王の妹。
では拓真は玲王にとって何だろう。

嵯峨叔且(さがとしかつ)という父がいる玲王にとって、拓真とは、伯父でもなく兄でもなく、もちろん父ではない。
遠い親戚でもない、何の血の繋がりのない関係。


血の繋がり?血の繋がりって何だろう。
拓真が何度となくぶつかってきた壁だ。



――――大丈夫よ、拓真。



義母の声が聞こえたような気がした。

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【2009.06.22 Monday 11:38】 author : sirius08
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